カクテルカタログジェニュイン:Cocktail Catalog GENUINE

麦などの穀物は栄養分を澱粉というかたちで貯蔵している。発芽の際に酵素を分泌して、この澱粉を糖に分解しエネルギーとして利用するのである。麦がそのまま成長を続けると糖は全て利用されてしまうが、これを乾燥させるか、火を使って焙燥すると、麦の成長が止まり、糖と酵素の残った甘い穀粒となる。麦の栽培は一万年ほど前の西南アジアで始まったといわれている。甘いものが少なかった古代、この便利な甘味製造法を人々は見逃さなかっただろう。麦芽の利用は、穀物栽培が始まるとほぼ同時期に発見されたと思われる。この甘い麦を粥にしたものを放置しておくと、天然酵母の作用により、糖がアルコールと炭酸ガスに分解される。これがビールの始まりである。麦芽を焙燥する際、温度を上げると麦芽の中の糖やアミノ酸などが発色して、色の濃い麦芽ができる。カラメルの甘い香りをともなったこの焙燥麦芽を利用するのがアイルランドのスタウトなどの黒ビールである。

かつてのビールづくりにおいて、麦芽内の糖をアルコールに分解するのは、醸造所内に自然に繁殖している酵母であった。優れた酵母を純粋培養し、ビールの品質をコントロールできるようになったのは、19世紀になってからのことである。ベルギーのランビックは現在でも自然発酵でつくられている珍しいビールだ。この自然発酵ビールを除けば、現在ビールの製法には、上面発酵とか下面発酵の二種類の方法がある。発酵を常温で行うと、酵母は活発に繁殖して、炭酸ガスとともに液の上面に浮かび上がる。これが上面発酵である。上面発酵ビールにはイギリスのエール、ドイツのケルシュやアルト、小麦と大麦を併用するヴァイツェンなどがある。

一方、低温で発酵を行うと、ゆっくりと発酵が進み、酵母は下方に沈殿する。これが下面発酵である。下面発酵のビールといえば、チェコのビルゼン地方に生まれたピルスナーが最も有名である。下面発酵は低温の環境を必要とするため、かつてのドイツには、秋の終わりから春の初めまでしかビール醸造を許可しない都市もあった。19世紀に冷蔵庫が発明され、通年醸造が可能になってからは、下面発酵ビールが世界のビール市場の主流となっている。下面発酵方式で醸造後、低温貯蔵期間を経て出荷されるビールを一般にラガー・ビールと呼んでいる。ビールはかつて、腐敗の心配があることから、遠隔地へ輸送することは困難であった。その問題を解決したのがルイ・パストゥールによる低温殺菌法の発明である。これは摂氏60度で約30分間加熱して酵母や雑菌を殺菌する方法である。パストゥーリゼーションと呼ばれるこの方法によって、ビールの保存性は驚異的に伸びた。ビールづくりが近代食品産業になったのはこの発明のおかげである。一方近年の濾過技術の発達によって、加熱することなく、微細濾過で雑菌や酵母を取り除く技術が生まれた。そのような方法でつくられたのが非加熱ビール、いわゆる瓶詰、缶詰の生ビールである。加熱による味や香りの変化の心配がなく生の風味が楽しめるビール、という中世以来のビールづくりの宿題への答えともいえよう。


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