スコッチウイスキーとは、イギリス北部のスコットランド地方でつくられるウイスキーをいう。 スコットランドは面積、人口とも、北海道にほぼ等しい。 そうした規模の土地で、日本の清酒の銘柄とほぼ同じ位の数の多彩なスコッチウイスキーを産出しているのである。
スコッチウイスキーは、中世にアイルランドからウイスキー製法が伝わって誕生した。 1949年のスコットランドの公式記録に「命の水」の原料大麦麦芽についての記述があるので、遅くともこの時代には、 首都エジンバラで古いかたちのウイスキーがつくられていたのは確実なようだ。 ただ、当時のウイスキーは蒸留したままの無色の状態で、しかも熟成させず、粗い味のままで飲まれていたにちがいない。
現在のようにピート香をもち、樽熟成によってブラウンカラーに染まったウイスキーが出現するのは、19世紀に入ってからのことである。 そのきっかけとなったのは、ウイスキー蒸留業者に対する政府の厳しい課税であった。 業者達は税吏の目を逃れて山間に潜伏し、密造するようになった。 その際、大麦麦芽を乾燥させる燃料としては、野山に無尽蔵に埋もれているピート(泥炭)を利用した。 また、蒸留器から滴ってきたウイスキーは公然とは売れなかったから、買い手が現れるまで不要になったシェリーの空き樽に詰めて隠匿していた。 ところが、こうした苦肉の策が、むしろウイスキーの風味の向上に役立つことが分かってくる。 ピートの煙臭はウイスキーの味を爽やかにし、シェリー樽での長期的保存は、ウイスキーの色を琥珀色に変えると同時にまろやかな熟成感を与える結果となったのである。 これ以来、スコッチウイスキーはピート香付与、樽熟成、琥珀色で出荷、ということが基本パターンとなった。
現在、スコッチウイスキーは製法上から、「モルトウイスキー」、「グレーンウイスキー」、「ブレンデッドウイスキー」の三つのタイプに分かれるが、 すべてスコッチウイスキーとして扱われている。
モルトウイスキーは、ピートの煙臭をしみ込ませた大麦麦芽(モルト)だけが原料。 発酵後、単式蒸留器で二回蒸留し、オーク樽でじっくり熟成させる。 ピート香と樽香ののった、コシの強いウイスキーだ。 蒸留所により、ピート香のつけ方、樽香のつけ方などに差があり、酒は蒸留所ごとの個性を帯びて生まれてくる。 そのため、他の蒸留所の原酒を一滴もヴァッティングしていないものは、シングルモルトウイスキーと呼び、生一本扱いされる。 現在、こうしたモルトウイスキーの蒸留所は約100ヶ所稼動している。 それらの蒸留所で産出されているモルトウイスキーは地方ごとに、 「スペイサイド(端麗、落ち着いた香味)」、「ハイランド(ピート香強く、爽快)」、「ローランド(ピート香淡く、穏健)」、 「アイラ(強いコクを持った香味)」の四つに大別される。
グレーンウイスキーはとうもろこし約8割に、ピート香をつけていない大麦麦芽約2割を混ぜ、連続式蒸留器で蒸留したものである。 最近は、小麦を混ぜる例も出てきている。ピート香がなく、味わいはソフトでマイルド。蒸留所は8ヶ所あるが、蒸留所による味の差はほとんどない。
ブレンデッドウイスキーはモルトウイスキーと、グレーンウイスキーをブレンドしたものをいう。 現在、私たちが飲んでいるスコッチウイスキーの大半は、このタイプのウイスキーだ。 その製造に当ってはふつう、モルトウイスキーを十数種類から、多い時には50種類ぐらいヴァッティングし、製品の骨格を決定する。 それに、一種類か二種類のグレーンウイスキーをブレンドして製品となるのである。 特に良質のモルトウイスキーを選び、たっぷり配合したものがプレミアム品である。