ヴァン(Vin フランス)、ヴィーノ(Vino イタリア・スペイン)、ヴァイン(Wein ドイツ)、ワイン(Wine イギリス)はいずれもぶどう果、 またはぶどう果汁を発酵させてつくった「ぶどう酒」をいう。 ぶどう以外の果物を原料としたものは「フルーツ・ワイン」として別の範疇で扱う。
人類の知恵はワイン醸造上の禍いを転じて福となしてきた。 例えばワイン貯蔵中の事故である再発酵からスパークリング・ワイン(発泡性ワイン)を、 産膜性酵母の汚染からシェリーを、貯蔵中の品温の異常上昇からマディラをそれぞれつくりだした。 また、草根木皮を加えた、古来の薬酒の流れから生まれたヴェルモットや、蒸留操作という錬金術の技術から派生したブランデー、もワインとその仲間である。 このようにワインは多種多様であるが、生産と消費の主体はスティル・ワイン(非発泡性ワイン)である。
世界のワイン生産数量はヨーロッパ大陸を中心に毎年3500万kl前後であるが、日本は焼く4万klにすぎない。 国別にミルとイタリア、フランス、スペイン、アメリカ、アルゼンチン等の生産数量が多い。 ぶどう樹は、年間平均気温10〜20度の地域に属する50か国以上の国で、約1000万haにわたり栽培されている。 世界全体で年間約6500万tものぶどうが収穫されるが、そのうち90%強はワイン醸造用で生食用のぶどうの占める割合は少ない。
原料ぶどうはワインの性格と酒質を決定する。 品質はヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラ種とアメリカ系のヴィティス・ラブルスカ種、および両者の雑種に大きく分けられる。 ヴィニフェラ種のうちでもワインの熟成に伴い品質向上が期待できるフランス・ボルドー地方のカベルネ・ソーヴィニヨン、 ブルゴーニュ地方のピノ・ノワールおよびシャルドネ、さらにドイツ・ラインガウとモーゼル地方のリースリングは非常に優れた品種である。 ラブルスカ種を原料としたワインは、フォキシー・スメル(狐臭)を有するとともに、貯蔵中の品質劣化速度が速いので高品質ワインとはなりがたい。
日本では白ワインの原料としてはヴィニフェラ系の甲州種とシャルドネ、赤ワインにはカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロと、 川上善兵衛氏の造成した雑種であるマスカット・ベリーAが主として用いられている。
最近、エチケットに原料ぶどう品種名を表示したワインに人気がある。 このため、世界的にカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、シャルドネ等の高級品種の植えつけ面積が増加している。 ワインの醸造法は地域および醸造場により異なり画一的な説明は難しいが、ごく標準的な醸造法について、赤ワインは 果皮の黒色系のぶどうを破砕し果梗を除去した後、果皮、果肉、果汁、種子を一緒にタンクに入れ、27〜30℃で10〜20日間発酵させる。この状態を「醸し」という。 発酵とともにアルコールが生成し、果皮からはアントシアニンと呼ばれる赤い色素が、また種子からは渋みの主体を形成するタンニンが抽出される。 発酵終了後圧搾し、マロラクティック発酵(MLF)に移る。 MLFにより鋭い酸味を有するりんご酸は口当たりの柔らかい乳酸に変化する。
高級ワインでは樽による貯蔵・熟成は必須である。 白ワインは果皮の緑色系あるいは黄色系のぶどうを破砕・除梗し、直ちに圧搾・搾汁する。 得られた果汁を発酵させ、適宜の甘辛の時点で発酵を停止させる。 発酵温度は12〜20℃、発酵期間もそれに伴い10〜30日と幅が広い。 白ワインの場合、シャルドネを原料としたものを除き、フレッシュ感をもたせるために、MLFは生起させないことが多い。 ロゼワインは赤ワインの醸し期間を短縮するか、赤、白用ぶどうの混醸による。 主産国では、赤、白ワインを調合してロゼワインとすることは、発泡性ワインを除き禁止している。
近年、醸造法が多様化し、白ワインではフレッシュでフルーティーな風味を求めて圧搾方法や果汁前処理法の改良が進められた。 また、香味に厚みをもたせるために「醸し」の状態で数時間置いたり、人口凍結ぶどう果の利用や樽発酵等も行われている。 赤ワインでは加熱処理による色素等の抽出やカルボニックマセレーションにより、若くても飲用可能な形にしたものも見られる。 さらに、逆浸透膜を用いて果汁等の濃縮も実用化されている。
日本ではワインを含め酒類は全て酒税法の適用を受ける。 酒税法では果実を主原料として発酵させた酒類は果実酒類に分類される。 さらにスティル・ワイン、スパークリング・ワインは果実酒に、フォーティーファイド・ワインなどはその製造法から甘味果実酒にそれぞれ細分される。 ヨーロッパではEC(欧州共同体)においてワイン法を制定し、加盟各国はこれに基づいてそれぞれ国内法を設けている。 なお、アメリカ、アルゼンチン等のEC加盟国以外の諸国でもワイン法を制定している。 ワインは製造方法との関連からみると、次ぎの4種類に分けることができる。
1. スティル・ワイン(非発泡性ワイン)
一般にワインという場合、この種類に入る。色調では赤、白、ロゼがあり、アルコール度数は日本の場合、14度未満、通常11〜12度。
フランス、ドイツ、イタリアでは、だいたい10〜12度とみてよい。
なお、瓶詰めの時期を非常に早くすると、炭酸ガスがワインに溶けこみ、瓶中で緩慢な後発酵を続けるものがある。
これはクラックリング・ワイン(弱発泡性ワイン)という。
2. スパークリング・ワイン(発泡性ワイン)
シャンパンに代表されるように、発酵中の炭酸ガスを瓶の中に閉じ込めて、発泡性をもたせたワイン。
ただし、シャンパンは原産地呼称法上定められた名称で、フランスのシャンパーニュ地方産に限られる名称。
一般には、スパークリング・ワイン、またはフランスではムスー、ドイツではゼクト、イタリアではスプマンテと呼んでいる。
アルコール度数は、だいたい9度から14度で、ガス圧は3気圧から6気圧くらい。
3. フォーティーファイド・ワイン(酒精強化ワイン)
シェリー、ポートが代表格。
発酵中、あるいは発酵終了後、ブランデーを添加するため、アルコール度数は18度前後となる。
4. アロマタイズド・ワイン(香味付けワイン)
ワインをベースにして各種スパイス、ハーブなどの蒸留液、あるいは浸出液を加えたり、果汁を加えてつくった香り高いワイン。
ブランデーを添加する場合も多い。
イタリアのヴェルモット、スペインのサングリア、フランスのキールが代表格。
アペリティフとして楽しむものが多い。
フルーツ・ワインとミード−フルーツワインは、ぶどう以外の果物でつくる醸造酒で、ミードは蜂蜜を原料とした醸造酒。 ともに製法がワインに似ている。